最近のプロツアーの映像をよく見ると、トップ選手たちがパドルのお尻まで握らず、少し上を持っているのに気づきます。
これは「チョークアップ」と呼ばれるテクニックで、リーチが短くなる代わりに、ハンドスピードと操作性を一気に高めてくれます。
この記事では、その仕組みとメリット、自分のプレーへの取り入れ方まで、具体的に解説していきます。
プロがやってる「チョークアップ」とは?
チョークアップとは、パドルのグリップエンド(お尻のキャップ部分)から指1〜2本分、上の位置を握る持ち方のことです。
英語の“choke up”がそのまま使われています。
普通はグリップエンドぎりぎりを握りますが、プロはあえて少し上を握ることで、パドルを短く持った状態をつくっています。
男子ダブルスの試合で、キッチンライン(※ネット前のノーバウンドゾーン)に立っているときに、この持ち方をしている選手が本当に増えています。
「短く持つ=守り」ではなく、「短く持つ=攻めの準備」という発想なんです。
グリップを上に持つと何が変わる?
グリップを上にずらすと、パドルそのものの重さは変わらないのに、「振ったときの感じ」がガラッと変わります。
イメージとしては、長いバットを根元で持つか、真ん中あたりを持つかの違いに近いです。
- リーチ:打点は体に近づき、横に届く範囲は少し狭くなる
- コントロール:面がぶれにくくなり、狙ったコースへ通しやすくなる
- 手の素早さ:パドルヘッドの動きが軽くなり、切り返しが速くなる
たとえば、速いラリーでフォア→バック→フォアと続く場面でも、パドルが“振り遅れ”しにくくなります。
「長いままではちょっと重いな…」と感じている人ほど、違いがはっきり出ます。
スイングウェイトと22ポイントの衝撃
ここでキーになるのが「スイングウェイト(※同じ重さでも“振ったときにどれくらい重く感じるか”を表す指標)」です。
あるプレイヤーが、縦長のエロンゲーテッドパドル(※ヘッドが縦長でリーチとパワーに優れたパドル)で実験をしました。
1本目のパドルを、通常の長さでスイングウェイト測定 → 約119〜120
そのパドルのグリップエンド側を約1インチカット → 再測定したら約98まで低下
なんと22ポイントも“軽く振れるパドル”になったわけです。
同じ重さでも、先端の重さがどれくらい離れているかで、体感は別モノになります。
チョークアップは、実際にはパドルを切ってはいませんが、手の位置を変えることで同じような効果を得ている、と考えられます。
ネット戦で光るハンドスピード強化
プロの試合を見ていると、ネット前の「手打ち合い」がどんどん激しくなっているのが分かります。
相手のアタックをブロックして、そのままカウンター、そこからさらにボレーの応酬…というシーンですね。
ここで重要なのがハンドスピードです。
チョークアップすると、パドルを振り始めてからインパクトまでの時間が短くなり、
- 予想外のコースに飛んできたボールにも反応しやすい
- ボールの外側を軽くこすって、角度をつけやすい
- 頭や体の近くを狙われても、とっさにガードしやすい
といったメリットが出てきます。
特に、速いドライブが体の正面に飛んできたとき、「間に合う/間に合わない」のギリギリを分けるのが、このハンドスピードの差なんです。
シチュエーション別グリップ使い分け
上級者やプロが上手いのは、「ずっと短く持つ」わけではなく、場面に応じて持ち方を変えているところです。
ざっくりいうと、こんなイメージです。
- ベースラインからのサーブ・ドライブ・リターン
→ グリップエンドまでしっかり握る(パワーとリーチ優先) - キッチンラインに入ったら
→ チョークアップして短く握る(操作性とハンドスピード優先) - 相手が強打を多用してくるとき
→ さらに少し上を持って、完全に“ブロックモード”に入る
つまり1本のパドルでも、握り位置で「ロングレンジモード」と「接近戦モード」を切り替えているイメージです。
この発想があると、自分のプレーももっと立体的になります。
自分のプレーに取り入れるコツ
いきなり本番の試合ですべて変えると、距離感やタイミングがズレてミスが増えがちです。おすすめは、練習の中で段階的に試すことです。
- まずは指1本分だけ上を持って、壁打ちやミニラリーで感覚をチェック
- そのままキッチンラインでのボレー練習・速いラリー練習をする
- 「届きにくい場面」「守りやすくなった場面」をメモして、自分に合う長さを探る
慣れてきたら、ゲーム形式の練習で「ネット前だけチョークアップ」「サーブ時は元の位置」といったルールを自分に課してみると、状況判断も鍛えられます。
まとめ
プロがパドルを短く握るのは、単なるクセではなく、スイングウェイトを下げてハンドスピードと操作性を最大化するための明確な戦術です。
リーチは少し犠牲になるものの、ネット前のラリーではその何倍ものリターンが返ってきます。
自分のプレーでも、まずは指1本分のチョークアップから始めて、どの場面でメリットを感じるかを探ってみてください。
「あ、今の1本はチョークアップしてなきゃ取れなかったな」と思える瞬間が増えたら、もう立派に“プロ的発想”を取り入れられている証拠です。





