父と約束した「いつか一緒に大会に出よう」という夢を果たせなかったスザンヌ・ハーバー。
15年前にテニスから転向した彼女は、今年も全米選手権の切符を手にしました。
父のパドルを受け継ぎ、仲間と共に歩む挑戦は、多くの人に勇気を与えています。
父と果たせなかった約束
ハーバーさんの心に残るのは、父デイブ・クンツェさんとの未完の約束。
父はシニアゲームで銀・銅メダルを獲得するほどの腕前で、「次は一緒に大会に出よう」と繰り返し誘ってくれていました。
しかし2020年、父は突然この世を去り、約束は果たされないまま。
育児に追われ「いつかね」と返事をしていた自分を振り返り、「後回しにしちゃダメなんだ」と痛感したそうです。
その悔しさが今、彼女をコートへと駆り立てています。
2年連続で全米選手権へ
今年7月、コロラド・スプリングスで行われた「ゴールデンチケット大会」で、ハーバーさんはシングルスとダブルスの両方で金メダルを獲得しました。
これにより11月の全米選手権(ナショナルズ)への出場が決定。
しかも昨年に続いて2年連続の快挙です。
「勝てばもちろん嬉しいけど、全力を尽くして負けてもすっきりできるのがピックルボールの魅力」と語る彼女。
父に見せられなかった姿を、今は観客や仲間に届けています。
テニスからピックルボールへ
8歳からテニスを始め、高校では1年生でバルシティ入りするほどの実力者だったハーバーさん。
当初は「テニスに比べてレベルが低そう」とピックルボールを軽く見ていたそうです。
ところが父の熱心な誘いでパドルを握ると、思いのほか奥深い技術にハマってしまいます。
特に「ディンク(※ネット際に落とす繊細なショット)」や「サードショットドロップ(※相手を前に引き出す戦術的な打球)」はテニスにない駆け引きで、新鮮な衝撃を受けました。
父の死後、形見のパドルで出場した初大会が、彼女を本気にさせたのです。
ダブルスの相棒との直感プレー
ダブルスでペアを組むのは、同じくコロラド出身のリン・マーフィーさん。
二人ともテニス出身で、プレースタイルのリズムが自然と合います。
「言葉にできないけど、コートに立つと同じ動きを選べる感じがある」とハーバーさん。
相手に攻め込まれても、アイコンタクトだけで瞬時に動きを変えられる。
緻密な戦術を組み立てるのではなく、その場で対応を切り替える「直感型」のスタイルが強みです。
過酷なシングルスとトレーニング
シングルスはピックルボールでもっとも体力を消耗する種目。
コートは小さいのに走る量はテニス以上。
球速も速く、瞬発力と持久力の両方が求められます。
「正直、筋トレ嫌いなんです」と笑う彼女ですが、冬の間は息子が組んでくれたウエイトメニューをこなし、体を徹底的に鍛え上げました。
ダブルスは実戦経験を積むのが一番の練習ですが、シングルスではジム通いが欠かせません。
父の分まで走り切る覚悟が彼女を支えています。
仲間と共に味わう青春の再来
「ピックルボールをしていると、学生時代のテニスの青春が戻ってきたみたい」と話すハーバーさん。
競技はハードでも、仲間と支え合いながら成長していけるのが魅力です。
地元のコミュニティはとても活発で、競争は激しいのに雰囲気は温かく、「全員で上手くなろう」という文化が根づいています。
さらに昨年、25周年の結婚記念日には、旅行先のコートで夫から新しい指輪を贈られるサプライズも。
彼女にとってピックルボールは、スポーツの枠を超えた人生の一部となっています。
まとめ
父との約束を果たせなかった悔しさを胸に、スザンヌ・ハーバーは全米選手権の舞台に立ち続けています。
テニス出身の技術、仲間との直感的な連携、嫌いな筋トレすら続ける努力。
そしてコミュニティに支えられながら笑顔でプレーする姿は、まさにピックルボールの魅力そのものです。
次の舞台で彼女が見せるプレーに、さらなる期待が高まります。