2026年、アジアのピックルボールシーンが一気に動き始めています。
マレーシアで開催されたAPPアジアツアーには世界各地から選手が集まり、プロだけでなくアマチュアやジュニアも参加。
大会の盛り上がりから、アジアが新たな競技拠点へ成長している様子が見えてきました。
マレーシア2大会で見えたAPPアジアツアーの勢い
2026年のAPPアジアツアーで大きなインパクトを残したのが、マレーシアで開催されたクアラルンプール大会とペナン大会です。
2月のクアラルンプール大会には、28か国から延べ1,760人が参加。
そのうち海外からの参加は延べ711人に達しました。
さらに7月のペナン大会でも、22か国から延べ1,386人が参加し、プロカテゴリーだけで100人を超える選手がコートに立ちました。
つまり、地域の愛好家だけが参加する大会ではなく、すでに国境を越えた国際大会として成立し始めているということです。
さらに特徴的なのが、プロ、アマチュア、ジュニアが同じ大会会場を共有していること。
普段は動画やSNSで見ているトップ選手がすぐ近くでプレーし、自分自身も同じ大会に参加できる環境は、初心者や若い選手にとってかなり刺激的です。
- クアラルンプール大会:延べ1,760人
- 参加国:28か国
- 海外からの参加:延べ711人
- ペナン大会:延べ1,386人
- 参加国:22か国
- プロカテゴリー:100人以上が出場
APP側も、この2大会を単なる成功イベントではなく、「アジアで本格的なツアーを作れる」と確認できた実証の場として捉えています。
※APP=Association of Pickleball Players。
プロ大会の開催などを通してピックルボール競技の発展を進めている団体です。
アジアのピックルボールは「ブーム」の次へ
アジアでは今、ピックルボールが「最近人気のスポーツ」という段階から、一つの競技産業へ変わり始めています。
特にマレーシアでは、単にプレー人口が増えているだけではありません。
ピックルボール専用施設、大規模大会、スポンサー、プロ選手、大会運営者など、競技を支える仕組みが次々と生まれています。
APPアジアのユキ・チェンは、現在のアジアを「可能性」から「制度化」へ移る段階と表現しています。
ここでいう制度化とは、人気があるだけで終わらず、ルール、審判、ランキング、選手データ、大会運営、スポンサーとの連携などを整えていくことです。
たとえば大会ごとにルールや審判基準がバラバラなら、選手は安心して国際大会を転戦できません。
ランキングが整っていなければ、「誰がどのくらい強いのか」も分かりにくくなります。
そのため今後は、
- 審判の育成
- 共通ルールの整備
- 選手ランキングの充実
- ジュニア育成
- 大会運営の標準化
- 継続できるスポンサー・ビジネスモデルの構築
といった部分が重要になります。
盛り上がっている今だからこそ、「一時的なブームで終わらせない仕組み」が求められているわけです。
※制度化=大会、ルール、審判、ランキング、育成などを整え、競技を継続的に運営できる状態にしていくことです。
国ごとに違う!アジアならではの広がり方
アジアのピックルボールで面白いのは、「この方法なら必ず広がる」という一つの成功パターンがないことです。
マレーシアでは、友人同士で楽しむコミュニティやレクリエーションから競技人口が広がっています。
実際、ピックルボールをきっかけに小学校や幼稚園時代の友人と20年ぶりに再会したという人もいるそうです。
一方、ベトナムでは競技力の高い選手が次々に登場しています。
もともとラケットスポーツの能力が高い選手がピックルボールへ転向し、短期間でトップレベルへ成長するケースも期待されています。
中国は巨大な人口に加え、卓球やバドミントンなどのラケットスポーツ文化が強いことから、長期的に非常に大きな市場になると見られています。
インドには大きな若年人口があり、タイ、台湾、フィリピン、インドネシアなどでも、それぞれ異なる形で競技が広がっています。
- マレーシア:コミュニティと大会文化が成長
- ベトナム:競技力の高い選手が台頭
- 中国:人口とラケットスポーツ文化が強み
- インド:若い世代の大きな可能性
- 台湾・タイ・フィリピンなど:独自の競技環境が発展中
だからこそAPP側も、「アメリカで成功した大会をそのままアジアに持ってくればいい」とは考えていません。
共通のルールやランキングは整えながら、料金設定や大会形式、地域企業との連携方法などは、それぞれの国に合わせて変えていく考えです。
アジア各国の違いをなくすのではなく、その違いを残したまま一つの競技圏につなげていく。
ここがAPPアジアツアーの面白いポイントです。
アジアにプロ選手への新しいルートを作る
これまで世界レベルのピックルボールで活躍したいと考えた場合、アメリカを中心とした大会へ出場することが大きな選択肢でした。
APPアジアが目指しているのは、この状況を変えることです。
アジアにも国際レベルの大会、ランキング、賞金、配信環境、プロ選手との対戦機会が整えば、若い選手が最初からアメリカへ移住しなくても、地元で経験を積みながら世界を目指せます。
これはジュニア選手にとってもかなり大きな変化です。
たとえば、
- 地域のクラブで競技を始める
- 国内大会へ出場する
- APPアジアの予選や大会に挑戦する
- アジアランキングを上げる
- 世界のトップ選手と対戦する
という流れができれば、プロへの道がかなり見えやすくなります。
一方で、アメリカやヨーロッパの選手にもアジア大会へ参加してもらい、賞金を獲得したり、アジアのトップ選手と対戦したりする環境を作ろうとしています。
つまり、「アジアの選手がアメリカへ行くだけ」ではなく、「世界の選手もアジアへ来る」という双方向の流れです。
APP側は、この状態こそがピックルボールを本当の意味でグローバルスポーツにするために必要だと考えています。
※競技パスウェイ=初心者やジュニアから大会出場、トップ選手、プロ選手へ進んでいくための育成・競技ルートのことです。
ベトナムや台湾から世界を狙う選手が登場
アジアのピックルボールでは、すでに世界レベルで注目され始めている選手もいます。
特に名前が挙がっているのがベトナム勢です。
Phuc Huynhは、素早い動きと狙った場所へ正確にボールを運ぶ能力が高く評価されています。
さらにLy Hoang Nam、Trinh Linh Giang、Quang Duongなども、ベトナムから登場した注目選手として紹介されています。
台湾のKao Pei Chuan、香港のKara Lin-Wheatley、台湾にルーツを持つVivian Glozmanなども注目される存在です。
- Phuc Huynh:ベトナム
- Ly Hoang Nam:ベトナム
- Trinh Linh Giang:ベトナム
- Quang Duong:ベトナム
- Kao Pei Chuan:台湾
- Kara Lin-Wheatley:香港
ただし、APP関係者が本当に期待しているのは、現在名前が知られている選手だけではありません。
アジアにはバドミントン、テニス、卓球、スカッシュなどの経験者がかなり多くいます。
特にバドミントン経験者ならフットワークや反応速度、卓球経験者ならネット付近での素早い打ち合いや角度の感覚など、これまで身につけた技術をピックルボールへ生かせる可能性があります。
そこへジュニア育成や専門コーチ、アカデミー、大会経験が加われば、まだ知られていない若手が一気に世界トップへ出てくることも十分考えられます。
「次のスターがどの国から現れるのか」。今後のアジアを見るうえで、かなり楽しみなポイントです。
ラケットスポーツ大国・アジアで広がる理由
なぜピックルボールはアジアと相性がいいのでしょうか。
大きな理由の一つが、アジアにはもともと強いラケットスポーツ文化があることです。
バドミントン、卓球、テニス、スカッシュなどを学校やクラブ、地域のスポーツ施設で経験した人も多く、ラケットでボールやシャトルを扱うこと自体に親しみがあります。
そのためピックルボールを始めたときにも、「ラケット競技そのものが初めて」という人ばかりではありません。
さらにピックルボールには、入り口が比較的やさしいという特徴があります。
初心者でも最初の練習からボールを打ち合いやすく、60代、70代のプレーヤーから子どもまで、一緒に楽しめる可能性があります。
たとえば祖父母、両親、子どもという3世代が同じコートでプレーできるのも、この競技の魅力です。
一方で、レベルが上がると一気に奥深くなります。
ショットをどこへ打つか、どこに立つか、相手の動きをどう読むか、ネット付近の高速ラリーにどう対応するかなど、考える要素がかなり増えていきます。
「最初は簡単そうだったのに、やればやるほど難しい」。
この入りやすさと奥深さのギャップが、ピックルボールにハマる人が増えている理由の一つです。
※ポジショニング=試合中に自分がどの場所へ移動し、どこで構えるかという位置取りのことです。
ダブルスでは特に重要な戦術になります。
まとめ
2026年のAPPアジアツアーを見ると、アジアのピックルボールは「競技人口が増えている」というだけの段階から、本格的なスポーツ文化を作る段階へ進み始めています。
マレーシアの大規模大会、ベトナムを中心とした選手の成長、中国やインドの市場規模など、国ごとの強みもかなり違います。
その違いを生かしながらアジア全体をつなげられれば、世界のピックルボール勢力図は大きく変わるかもしれません。
これからは「アジアでもピックルボールが流行っている」ではなく、「世界トップクラスの選手や大会がアジアから生まれる」時代に入っていきそうです。
日本からその流れに加わる選手が出てくるのかにも注目です。


