「リハビリって、もっと楽しくていい」――そんな想いから生まれたピックルボールの取り組みが、ニューヨークで広がりを見せています。
体だけでなく、心も元気にする。
それがこの活動のすごさ。
パーキンソン病と向き合う人たちが、“また明日も来たい”と思える理由とは?
病気と闘う人たちに広がるピックルボールの力
パーキンソン病の主な症状は、筋肉のこわばりや手足の震え、バランスの悪化など。
でも、薬だけでは進行を止めることができません。
そこで注目されているのが「激しい運動」。
ニューヨークでは、毎週火曜日の午前中、セントラルパークの特設コートに人々が集まります。
そこでは「ピックルボール※」を使った無料の運動プログラムが行われていて、30人近いパーキンソン病の当事者とボランティアが、楽しそうにプレーしています。
※卓球とテニスを掛け合わせたようなスポーツ。
コートが小さく、ラケットの代わりに“パドル”と呼ばれる板を使います。
きっかけは当事者のリアルな体験
このプログラムを立ち上げたのは、元不動産エージェントのテレンス・デグナンさん(当時40代)。
2022年にパーキンソン病と診断され、「何か始めなきゃ」と思って出会ったのがピックルボールでした。
最初は手が震えてボールに当てるのも一苦労。でも数週間後、「今日は調子がいいかも」と感じる日が増えていきました。
「ピックルボールをやった日と、やらない日では全然違うんですよ。身体もそうだけど、気分がすごく軽くなるんです」とテレンスさんは語ります。
口コミで仲間が増え、今では毎週30人前後が集まるまでに。
一緒にプレーするから“自然に交われる”
会場には、20代の大学生ボランティアから、同じ病気を抱えるシニアまで、年齢も症状もバラバラな人たちが集まります。
たとえば、70代のジョンさんは、腰をかがめて歩くのがやっと。
でもパドルを握ると、表情がパッと明るくなり、ゆっくりでも相手のボールに反応しようとします。
そのそばには常に2人のボランティアが寄り添い、サポート。
「ここでは“できる範囲でいい”って思えるんです。誰も見下さないし、失敗しても笑い合えるから」と話すのは、参加者のマーガレットさん(63歳)。
病気の症状が出ても、プレー中は“ただの仲間”になれる。
それがこのプログラムの最大の魅力です。
心も前向きになる、ボランティアの視点
ボランティアの一人、グレイシー・エバンズさんはコロンビア大学の大学院生。
ナラティブ・メディスン(物語医学)という分野を学んでおり、ピックルボールが患者に与える影響を研究しています。
「震えや動きの改善もありますが、それ以上に“私はまだ動ける”って思えることが大事なんです」と語る彼女。
週1回のこの活動が、参加者たちの生活のリズムになっていることも確認されています。
また、ゲームが終わった後には自然と笑い声があふれ、「また来週ね」と言い合う姿も。
運動が“義務”ではなく“楽しみ”になる。
まさに理想のリハビリです。
ピックルボールは“つながり”も生む
13年前に発症し、手の震えが強く出るジャネットさん(66歳)は、毎週ほぼ欠かさず参加しています。
「この場は私にとって“セカンドホーム”みたいなもの。ピックルボールを通じてできた仲間と話す時間がすごく貴重なんです」とにっこり。
病気になると、人との接触が減りがち。
でもこの場所では、競技だけじゃなく、世間話や笑いが自然と生まれます。
「気づいたら悩みを話してた」なんて日もあるそう。
リハビリを超えた“スポーツの可能性”
ピックルボールは見た目よりずっと頭も体も使うスポーツ。
狭いコートで素早く動いたり、相手の動きを読んだりと、集中力と連携が求められます。
これはパーキンソン病のリハビリにはピッタリ。
特に「バランス」「瞬発力」「戦略思考」といった要素が、脳や神経系に良い刺激を与えてくれます。
「夢は、この活動をもっといろんな場所に広げること」と話すテレンスさん。
すでに全米各地から「うちでも始めたい!」という声が届いているそうです。
まとめ
ピックルボールは、単なるスポーツを超えて、人と人とをつなぎ、病気と向き合う勇気をくれる存在になっています。
「できないことが増えた」と感じるのではなく、「まだできることがある」と思える――そんな希望を与えてくれる時間が、ニューヨークのコートでは今日も広がっているのです。