プロ選手のクアン・ドゥオンが、大会中の試合や身体の状態を率直に振り返りました。
腰痛によるシングルス棄権、猛暑の混合ダブルス、急な会場変更を乗り越えて男子ダブルス決勝へ進んだ4日間を紹介します。
約4週間の連戦と腰痛を抱えて大会へ
クアン・ドゥオンは、大会が始まる約3週間前から腰に痛みを抱えていました。
ベトナム、マレーシア、フィリピンと大会を転戦し、最も長く休めた期間でも3日ほど。フィリピンから米国へ移動する前も、休養できたのは1日半から2日程度でした。
マレーシア大会では、腰をテーピングしながら出場。
試合中に3~4回のメディカルタイムアウト(※けがや体調不良の処置を受けるための中断時間)を取りながらも、シングルスとダブルスで優勝し、混合ダブルスでは銀メダルを獲得しました。
その後は痛みが治まったため、自分の身体が回復したと判断していました。
しかし、今大会の男子シングルスでは腰痛が再発します。
ベスト16でアマー・ワジールと対戦し、第1ゲームは2-7から9-7まで逆転。
一度は9-9に追いつかれましたが、最後は11-9で競り勝ちました。
第2ゲームでは、相手が打った厳しいコースのボールを無理に追った際に転倒し、腰をひねってしまいます。
クアンは試合を途中棄権しましたが、けがを言い訳にせず「アマーは試合を通して素晴らしいプレーをしていた」と相手をたたえました。
腰への負担が重なった要因として、次の点が挙げられます。
- 約4週間にわたって大会が続いた
- 大会と大会の間に十分な休養がなかった
- アジアから米国への長距離移動があった
- 滞在先ごとに治療スタッフを探す必要があった
- シングルスでは広い範囲を一人で守る必要があった
父からはシングルスへの出場を控えるよう勧められていました。
クアン自身も、実力ではなく「身体が連戦に耐えられる」という点で少し過信していたと振り返っています。
猛暑と短い休憩に苦しんだ混合ダブルス
シングルスを棄権した翌日、クアンはビビアン・グロズマンと混合ダブルス(※男女1人ずつでペアを組む種目)に出場しました。
2人はこれまでにも複数のメダルを獲得していましたが、まだ金メダルには届いていません。今大会では初優勝を目指してコートに入りました。
試合前には、腰を守るためのテーピングを実施。
前夜には20~30分ほど入浴したあとで患部を冷やし、父による鍼治療やマッサージも受けました。
腰を余計にひねらないよう、ストレッチは軽めに抑えています。
当日の会場は雲がほとんどなく、クアンが「オーブンで焼かれるディープディッシュピザのよう」と表現するほどの暑さでした。
気温の影響でボールの動きも前日より遅く感じられ、普段とは異なる感覚への対応が求められました。
ベスト32では、エイブリー・チュー/ドレイク・パーム組と対戦。
ストレートで勝利したものの、日陰のないコートで試合は約1時間半に及びました。
クアンは混合ダブルスで広い範囲をカバーし続け、全身がつりそうな状態になります。
試合後はフィジオ(※選手のけがや疲労をケアする専門スタッフ)からマッサージを受けていました。
しかし、20~30分ほど休めるという予想に反し、5分もたたないうちに次の試合へ向かうことになりました。
ベスト16では、ブランドン・レーン/クリスティン・マドックス組と対戦。
第1ゲームを取ったものの、第2ゲームはアンフォーストエラー(※相手の好プレーではなく、自分側の判断や技術によって起きるミス)が増え、1-11ほどの大差で落としました。
第3ゲームも6-5まで競り合いましたが、最後は相手の安定したプレーに押し切られています。
パトリックとの男子ダブルスで好スタート
大会3日目の男子ダブルスでは、クアンはパトリック・カウカと初めてペアを組みました。
クアンはパトリックのプレースタイルを「良い意味で予測不能」と表現しており、2人がどのような組み合わせになるのか本人も楽しみにしていました。
初戦では、友人のダスティ・ボイヤー/ケイデン・サレフスキー組と対戦。長身の選手を含む安定したペアでしたが、クアン/パトリック組は立ち上がりから積極的に攻め、良いスタートを切りました。
続く試合の相手は、アンドレ・ミック/カラン・ドーソン組です。第1ゲームでは向かい風のなかでプレーしました。
相手のディンク(※ネット際へ柔らかく落とすショット)が風によって少し浮くと、クアンが前へ手を伸ばして攻撃し、ポイントにつなげました。
第2ゲームは8-2と大きくリード。しかし、カランが何度もクアンの背後へボールを送ったため、クアンはアーニー(※ノンボレーゾーンの外側を回り、空中でボレーする攻撃)を狙います。
その際に足が入りすぎ、ボールへ触れる前にフットフォルトを取られました。
このプレーをきっかけに相手が勢いを取り戻し、8-6まで追い上げてきます。
それでも、右サイドを守るパトリックが安定したプレーを続け、流れを立て直しました。
2人は再びサーブ権を取り戻し、そのまま準々決勝進出を決めています。
この日のクアンは、前日よりも疲労が少なく、全身がつりそうな感覚もありませんでした。
本人は冗談交じりに、前夜に食べたディープディッシュピザと薄い生地のピザのおかげかもしれないと振り返っています。
リベンジを果たして男子ダブルス決勝へ
準々決勝では、タナー・トマッシ/アマー・ワジール組と対戦しました。
クアンにとっては、過去の敗戦が強く記憶に残っている相手です。
以前はジェイデン・ブロデリックとペアを組み、第1ゲームで10-7とリードしていました。
ところが、クアンがフォアハンドのスピードアップ(※柔らかいラリーから急に強打へ切り替えるショット)をわずかにサイドラインの外へ出してしまいます。
その後はパートナーの身体にも異変が起き、第2ゲームを大差で落として敗れました。
今回の再戦でも、トマッシ/ワジール組は非常に良いプレーを見せました。
クアン/パトリック組は第1ゲームを安定して戦いましたが、第2ゲームは最後まで結果の分からない接戦となります。
特に最後の2ポイントは激しいハンドバトル(※ネット付近で続く高速ボレーの応酬)となりました。
クアン自身も「どうやって勝てたのか分からない」と話すほどの展開でしたが、とにかくパドルを出し続け、返球に成功。運も味方につけながら、過去の敗戦へのリベンジを果たしました。
準決勝に向けてウォームアップを始めたものの、対戦相手が棄権。
試合を行わずに決勝進出が決まりました。
準備を始めたり止めたりする落ち着かない状況でしたが、クアンは気持ちを切り替え、次のことに集中しました。
- 翌日の決勝へ意識を向ける
- 焦らず身体を休ませる
- 夕食でエネルギーを補給する
- 長めの睡眠を取る
- 決勝前に十分なウォームアップを行う
雷雨で屋内開催となった男子ダブルス決勝
男子ダブルス決勝の相手は、ジャック・マンロー/リチャード・リボルネーゼ・ジュニア組でした。
クアンはアジアの大会で2人と何度も対戦していましたが、米国で戦うのは今回が初めて。
試合前から「楽しい試合になる」と期待していました。
ところが当日は雷雨が発生し、屋外で予定されていた試合が急きょ屋内へ変更されます。
クアンは試合がもっと遅くなると思い、スターバックスで休んでいました。
そこで試合開始の約20分前に「午後2時から屋内で試合を行う」と知らされます。
突然の変更でしたが、クアンは普段から屋内でもプレーしており、屋内コート自体も好きだと説明。「会場変更を言い訳にはできない」と話しています。
決勝では、クアン/パトリック組が第1ゲームを11-9で先取しました。
しかし、マンロー/リボルネーゼ組が第2ゲームで調子を上げ、11-2で取り返します。
最終第3ゲームは、序盤から両ペアが譲らない接戦となりました。
終盤に入ると相手は大事な場面でほとんどミスをせず、クアン/パトリック組にはアンフォーストエラーが増えます。
最後は6-11で敗れ、金メダルには届きませんでした。
決勝のスコアは次のとおりです。
- 第1ゲーム:クアン/パトリック組が11-9で勝利
- 第2ゲーム:マンロー/リボルネーゼ組が11-2で勝利
- 第3ゲーム:マンロー/リボルネーゼ組が11-6で勝利
クアンは敗戦後、相手ペアの安定したプレーを素直に評価しました。
父からも「両チームとも非常に良いプレーをしていた」と声をかけられています。
初めて組んだパトリックと決勝まで進み、銀メダルを獲得したことは大きな成果となりました。
食事と休養から学んだコンディション管理
クアンが大会を通して学んだのは、技術や戦術と同じくらい、身体のケアが重要だということです。
特に大会が連続する場合は、痛みが一時的に消えても完全に回復したとは限りません。
長距離移動や短い休憩時間まで考え、出場種目を選ぶ必要があります。
普段のクアンは、大会中に朝食を取らず、夕食までほとんど何も食べないことがありました。
しかし、今回のような厳しい日程では、試合と試合の間にエネルギーを回復できません。
そこで、まずはベーグルを半分食べるなど、軽い朝食から始めました。
大会中に取り入れた主な回復方法は次のとおりです。
- 腰を固定するテーピング
- 入浴後のアイシング
- 父による鍼治療
- 腰周辺のマッサージ
- やりすぎない程度のストレッチ
- 炭水化物とタンパク質の補給
- 十分な睡眠時間の確保
また、クアンは弟のバオについても語っています。細かい準備や時間を重視するクアンとは対照的に、バオは周囲の状況をあまり気にせず、自由な気持ちでプレーするタイプです。
クアンは冗談を交えながらも、弟が優れた練習相手であり、自分の成長に欠かせない存在だと認めています。
厳しい敗戦やけがについて話しながらも、ピザや食事の話題を挟み、明るさを失わないのがクアンらしいところです。
失敗を必要以上に引きずらず、改善点を見つけて次の試合へ進む姿勢も、プロとしての強さといえるでしょう。
まとめ
クアン・ドゥオンは、腰痛や猛暑、短い休憩時間、突然の会場変更に対応しながら、男子ダブルスで銀メダルを獲得しました。
金メダルには届きませんでしたが、パトリック・カウカとの初ペアで決勝まで進んだことは大きな成果です。
今回の4日間からは、ピックルボールの技術だけでなく、食事、休養、治療を含めたコンディション管理の大切さも伝わってきます。
身体を整えたクアンが、次の大会でどのようなプレーを見せるのか注目です。


