こんにちは、スポーツ内科医の岡田です。
前回は、
・熱中症とはどんな病気か?
・どのような症状が出現したら熱中症を疑うのか?
などについて書きました。
7月も後半になり本格的に暑くなってきましたが、それに伴い熱中症の危険も一気に高くなります。ですので如何にして熱中症を起こさないようにするかが重要になります。
そこで今回は「熱中症の効果的な予防法」について書きたいと思います。
熱中症の起こりやすい環境を知る
皆さんはWBGTという言葉を聞いたことはありますか?
WBGT(湿球黒球温度)とは、人体の熱収支に影響の大きい湿度、輻射熱、気温の3つを取り入れた指標で、「暑さ指数」とも呼ばれています。
WBGTが25℃を超えると熱中症の危険が高まることがわかっており、日本スポーツ協会の「スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック(2019)」では、
運動に関する指針としてWBGTが、
31℃以上:運動は原則禁止
28~31℃:厳重警戒(激しい運動は中止)
25~28℃:警戒(積極的に休憩)
21~25℃:注意(積極的に水分補給)
21℃未満:ほぼ安全(適宜水分補給)
と定められています(詳細は下記の表を参照)。
引用元:heatstroke_0531.pdf (japan-sports.or.jp)
WBGTは気温とある程度相関しますが、気温がそこまで高くなくても湿度が極端に高い場合ではWBGTは高くなり、熱中症の危険は高くなるため注意が必要です。
WBGT(暑さ指数)は天気予報以外にも「熱中症警戒計」というアプリなどでも知ることができます。運動前から「今日は熱中症の危険が高い気候かどうか」を知っておくことは、熱中症を予防するためには非常に有用です。
運動中はこまめに休憩する
前回のコラムで熱中症の根本的な原因は、「深部体温の上昇」であることを書きました。ヒトの深部体温は、
熱産生:生命維持に関わる代謝活動、スポーツや肉体労働などによる筋運動な
熱放散:発汗による汗の蒸発、外気温による冷却、冷たい液体や固体による熱伝導など
により調節されています。
ですが、暑い季節では「熱産生」に対して「熱放散」が追い付かず、深部体温が上昇します。
ピックルボールをしていると楽しくてついつい時間が経つのを忘れてしまいそうですが、絶えずプレーしていると深部体温が上昇し続け、運動パフォーマンス低下や熱中症に繋がるため、暑い季節ではこまめに休憩することも大切です。
本当に暑い時期では、クーラーの効いた屋内で休憩し、深部体温を下げることができればより効率の良い休憩となります。
適切な水分補給
皆さんはピックルボールをしている時はしっかり水分補給を行うかと思います。ですが、「適切な」水分補給はちゃんとできているでしょうか?
私は様々な競技のプロアスリートとお話してきましたが、プロアスリートであっても、水分補給の方法が十分とは言えないと感じることが多々ありました。
それでは「適切な」水分補給のポイントを解説します。
・何を飲むか?
皆さんは運動中に何を飲んでいますか?水やお茶、スポーツドリンクなど様々だと思います。夏に運動をすると深部体温を下げるために汗をたくさんかきますが、発汗により水分だけでなくミネラル(特に塩分)も喪失します。
よって汗をたくさんかく季節では、水分だけでなくミネラルもしっかり補給できるスポーツドリンクがおすすめです。
「スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック(日本スポーツ協会)」では、塩分濃度が0.1~0.2%の飲料が推奨されています。市販されているスポーツドリンクのほとんどは塩分濃度0.1~0.2%で設定されているため、皆様のお好みのスポーツドリンクを選んでいただければよいと思います。
・どのくらいの量を飲むか?
いくらスポーツドリンクを飲んでいたとしても、水分摂取量が少なければ脱水になってしまいます。それではどのくらいの量を飲んだら良いのでしょうか?
汗をかく量は個人差はありますが、多い人では1時間当たり2リットル以上にもなるとされ、皆様も夏の運動後に体重を計ったらいつもよりも〇kg減っていたなんて経験はあるかと思います。
スポーツ医学的には体重の2%以上の脱水があると、競技パフォーマンスが落ちるというのが一般的です。つまり、体重60kgの人が運動後に58.8kg(マイナス1.2kg)以下になっていた場合は、水分摂取量が不足しているということになります。
皆様も運動後に体重が2%以上減らないように十分な量の水分補給をするようにしてください。
・ドリンクの温度はどうか?
夏にペットボトルをそのまま置いておくとあっという間にぬるくなってしまいますよね。夏の水分補給は「脱水の予防」以外にも「体温を下げる」という重要な目的があります。
それではドリンクの温度はどのくらいが理想的なのでしょうか?
ドリンクの温度と吸収に関する研究では、5~35℃の飲料を摂取した15分後の胃内の残留量を調べたものがあり、結果は25℃、35℃の飲料に比べて5℃、15℃の飲料の方が胃内残留量が少なかった、というものがあります。
体温に近い(ぬるい)温度のドリンクの方が吸収がよさそうなイメージを持っている方も多いと思いますが、実は冷たい方が吸収も早く、体温を下げる目的も果たすことができます。
ちなみに5℃は氷が溶けた直後、15℃は冷蔵庫から出した直後くらいの温度になります。
クーリングで体温を下げる
「しっかり水分補給をしていたのに熱中症になってしまいました」
スポーツドクターをしているとこんな話をよく聞きます。
繰り返しになりますが、熱中症は深部体温の上昇が原因ですので、水分摂取だけでは予防できない場合も多々あります。
もちろん適切な水分補給は体温上昇を防ぐためにも必要不可欠ですが、それと同じくらいクーリングも重要になります。
クーリングのタイミングはいろいろありますが、重要なのは運動前(プレクーリング)と運動中(パークーリング)です。
運動前にクーリングを行い深部体温を下げることで、持久力の向上が期待できます。プレクーリングに最適な方法としては、アイススラリーが挙げられます。
アイススラリーとは、氷と飲料水が混合したシャーベット状の飲料物で、「ポカリスエット」や「リポビタン」のアイススラリーが市販されています。うまく使うには少し慣れが必要ですが、一度試してみて下さい。
パークーリングの方法としては、アイスタオル法(冷たいタオルを体表面や首元などに当てる方法)が簡便です。この方法は最も一般的なクーリング法だと思います。
最近は「手足の浸水」と言って、バケツなどに冷たい水を入れて、両手両足を浸けるという方法も、効率よく深部体温を下げることができるクーリング法として拡がってきています。
いかがでしたか?
少し長くなってしまいましたが、この夏にピックルボールを安全に楽しむために、是非参考にしていただければと思います。