最近のピックルボールでは、ネット際で打つ柔らかな「ディンク」を両手バックハンドで処理する選手が目立っています。
なぜパワーが必要ないショットに両手を使うのでしょうか。
そこには、回転・安定性・攻撃力を高めるという、現代ピックルボールならではの理由があります。
両手バックハンドでディンクを打つ選手が増えている
最近のハイレベルなピックルボールでは、バックハンドを両手で打つプレーが珍しくなくなっています。
これまで両手バックハンドといえば、ベースライン(※コート後方のライン)から強く打つドライブや、サーブリターンなど「速いボールを打つ場面」で使われるイメージが強い技術でした。
ところが今は、キッチン付近で打つ**ディンク(※相手のノンボレーゾーン内へ低く柔らかく落とすショット)**でも両手を使う選手が増えています。
ディンクは数メートル先へ柔らかく返すショットなので、単純なパワーは必要ありません。
それでも両手を使う理由は、ショットの安定性を高めたり、ボールに回転を与えたり、より攻撃的なコースを狙ったりできるからです。
特にバックハンド側へ少し高めのボールが来たとき、両手を使えばパドルを安定させながらボールの後ろを上方向へこすりやすくなります。
つまり、「強く打つための両手打ち」から「繊細に攻めるための両手打ち」へ用途が広がっているのです。
ディンクは「守るショット」から攻撃の起点へ進化
以前のディンクは、相手に攻撃されないための安全なショットとして使われることが中心でした。
ネットより低い位置へボールを落とし、相手にスマッシュや速いボレーを打たせないことが最優先だったのです。
そのため、昔の感覚では「低く、ゆっくり返せればOK」という考え方でも十分でした。
しかし現代の上級者は、ディンクの1球にも狙いを持っています。
たとえば相手のフォアハンド側へ短く落としたあと、次はバックハンド側へ深めに送るなど、コースを変えて相手を動かします。
横へ大きく動かされた相手は体勢が崩れやすく、次のボールが少し浮く可能性も高くなります。
さらに、
- 相手の足元へ沈める
- 左右へ角度をつける
- 回転を加えてバウンド後に変化させる
- テンポを少し速めて反応時間を奪う
といった工夫も使われます。
つまり今のディンクは、単なる「守備」ではありません。
相手を崩し、浮いたボールを引き出し、次の攻撃へつなげるための攻撃準備のショットになっています。
両手を使うとパドル面が安定しやすい
両手バックハンドディンクの大きなメリットのひとつが、パドルを安定させやすいことです。
キッチン(※正式にはノンボレーゾーン。ネットから約2.13mの範囲に設けられているエリア)付近では、相手との距離が近いため、ボールが返ってくるまでの時間がとても短くなります。
そのため、大きく振るよりも、コンパクトな動きで正確にパドル面を作ることが重要です。
片手バックハンドの場合、ボールが体から離れたり、少し高い位置へ来たりすると、手首や腕だけで調整しようとしてパドル面がブレることがあります。
そこで反対側の手を添えると、パドルを支えるポイントが増え、インパクト(※パドルとボールが当たる瞬間)の面を安定させやすくなります。
たとえばクロスコート(※コートを斜め方向に使うコース)へディンクを送る場合でも、両手ならパドル面を保ちながらボールを運びやすくなります。
ただし、「両手なら必ず安定する」というわけではありません。
腕だけで振るのではなく、膝を軽く曲げ、体の前でボールをとらえることが基本です。
両手はその安定したフォームをさらにサポートしてくれる役割と考えるとわかりやすいでしょう。
最大のメリットはトップスピンをかけやすいこと
両手バックハンドディンクが増えている最大の理由といえるのが、トップスピンをかけやすいことです。
トップスピン(※ボールが前方向へ回転するようにかけるスピン)は、ボールを上からコートへ落ちやすくする回転です。
そのため、回転をかけずに打つ場合よりも少し速いスピードで打っても、ボールをコート内へ沈めやすくなります。
両手バックハンドでは、利き手だけでパドルを動かすのではなく、非利き手が積極的に働きます。
右利きの選手なら、左手でパドルを前方・上方向へ押し上げるように使い、ボールの後ろ側を下から上へブラッシング(※こするようにスイングする動き)します。
感覚としては、左手でフォアハンドを打っているようなイメージに近いです。
トップスピンがかかったディンクには、
- ネットを越えたあと急に沈みやすい
- 少し速いボールでもコートに収めやすい
- バウンド後に伸びるため相手が処理しにくい
- 相手の足元へ攻めやすい
といった特徴があります。
ただ柔らかく返すディンクよりも、相手にプレッシャーをかけられるため、攻撃的な選手ほどトップスピンディンクを積極的に取り入れているのです。
ベースラインの両手打ちをネット際にも応用できる
もともと両手バックハンドでドライブを打つ選手にとって、両手バックハンドディンクは比較的取り入れやすい技術です。
たとえばベースラインから両手バックハンドで強いドライブを打つ場合も、非利き手を使ってパドルを前方へ押し出し、ボールに回転をかけます。
ネット際のディンクではスイングを小さくしますが、非利き手を使って回転を生み出す基本的な考え方は共通しています。
実戦では、
- ベースラインから両手バックハンドドライブを打つ
- 少しずつキッチンラインへ前進する
- 相手から低いボールが返ってきたらディンクへ切り替える
- 両手バックハンドでトップスピンをかける
- 相手の返球が浮いたらボレーやスピードアップで攻撃する
といった流れも考えられます。
スピードアップ(※ディンクラリー中などに突然ボールの速度を上げて攻撃するショット)へつなげるためにも、回転のあるディンクは効果的です。
後方では「強い両手バックハンド」、前方では「柔らかい両手バックハンド」と使い分けられれば、同じフォームの考え方をコート全体へ応用できます。
これは試合中のショット選択をシンプルにするメリットにもつながります。
両手バックハンドディンクが示すピックルボールの進化
両手バックハンドディンクが広がっている背景には、ピックルボールそのものがどんどん攻撃的になっていることがあります。
以前は「まずミスをしない」「相手に強打させない」という考え方が中心でした。
しかし現在の上級者は、守備的な場面でも次の攻撃を常に探しています。
ディンクラリーでも、ただ相手のキッチンへ返すだけではありません。
「次に相手をどこへ動かすか」「どのボールを浮かせるか」「どのタイミングでスピードを上げるか」まで考えながらプレーしています。
その中で、両手バックハンドは、
- 安定したパドル面を作る
- トップスピンをかける
- コースを打ち分ける
- 相手の時間を奪う
- 攻撃へ切り替える準備をする
といった複数の役割を担える技術になっています。
もちろん、すべての選手が両手バックハンドディンクを使う必要はありません。
片手でも高いレベルのディンクは十分に打てます。
ただ、戦術が攻撃的になるにつれて、選手が「ボールをただ返す」のではなく、「その1球で何を起こすか」を考えるようになった結果、両手バックハンドという選択肢が広がっているのです。
まとめ
両手バックハンドディンクは、力を出すためではなく、パドルの安定性を高めながらトップスピンをかけ、より攻撃的なボールを作るために使われています。
現代のディンクは、ただラリーを続けるショットではなく、相手を動かし、崩し、次の攻撃を準備する重要な戦術になっています。
試合を見るときは、選手がバックハンドディンクを片手で打つのか、両手で打つのか、その後どんな攻撃につなげているのかにも注目してみてください。
ネット際の何気ない1球にも、ピックルボールの進化した戦術がぎゅっと詰まっています。


