近年、ピックルボールの人気が急上昇し、テニスとの間でコートを巡る競争が激化しています。特にアメリカでは、公共の施設やクラブがピックルボール用にテニスコートを転用する動きが広がっています。今回は、その影響や対策、そしてテニス界の反応について詳しく解説します。
ピックルボールの急成長
ピックルボールはここ数年で急激にプレイヤー数が増加しており、2021年から2024年の間に参加者が223.5%も増えています。特にアメリカでは1000万人以上がピックルボールに挑戦しており、これはフィットネスやソーシャルな要素が融合した魅力的なスポーツとして認識されているからです。
初心者でもすぐにルールを理解し、テニスよりも軽いラケット(※ピックルボールでは「パドル」と呼ばれます)を使用するため、年齢や体力に関係なく楽しめるのが特徴です。このため、若者から高齢者まで幅広い層がピックルボールに魅了されているのです。
コート転用問題
ピックルボールの急成長に伴い、テニスコートがピックルボール用に転用される問題が深刻化しています。全米テニス協会(USTA)の推計によれば、アメリカ国内のテニスコートの少なくとも10%がピックルボール用に再塗装されています。特に公共の公園や、民間クラブでもこの動きが広がっており、1つのテニスコートを4つのピックルボールコートに分割できるため、ピックルボールが優先されるケースが増えています。
この背景には、テニスコートをそのまま使うよりも、ピックルボールコートに改装した方がクラブにとって経済的に利益をもたらすという事情があります。ピックルボールは1つのテニスコートで最大16人が同時にプレイできるため、スペース効率が高く、多くの利用者を一度に収容できるのです。
テニス界の懸念
このコート転用の動きに対して、テニス界も黙ってはいません。今年のウィンブルドンで24回のグランドスラム優勝を果たしたノバク・ジョコビッチも、ピックルボールの急成長に対する懸念を表明しています。彼は「このままではテニスコートがピックルボールやパデル用にどんどん転用されてしまう。経済的にはそれが合理的だが、テニスのインフラが守られなくなる」と語りました。
ジョコビッチのように、テニス界のレジェンドたちがピックルボールの台頭に危機感を抱くのは、テニスコートの減少が選手育成や大会運営に影響を及ぼす可能性があるからです。コート数の減少が進むことで、テニスプレイヤーの育成環境が狭まってしまうことが懸念されています。
コートの経済効果
クラブや公共施設がテニスコートをピックルボール用に転用するのには明確な経済的理由があります。1つのテニスコートは通常4人しかプレイできませんが、ピックルボールなら同じコートで最大16人がプレイできます。これにより、施設側は一度により多くの会員を収容でき、料金を多く徴収できるため、経済的に有利なのです。
さらに、ピックルボールはテニスよりも用具が少なくて済み、インフラの整備も簡単です。パドルやボールのコストも低く、コートに必要な改装も比較的少額で済むため、クラブ側としてはピックルボールに魅力を感じるのも無理はありません。
USTAの対策
USTA(全米テニス協会)は、ピックルボールの台頭に対抗するために新たな取り組みを始めています。その一つが「レッドボールテニス」です。この新しい形式では、柔らかいボールと小さなコートを使うことで、ピックルボールのように少ない走力で楽しめるスタイルを提供しています。
レッドボールテニスは既存のテニスコートをそのまま利用できるため、ピックルボールにコートを奪われることなく、新規プレイヤーを獲得することができます。現在、アメリカ国内の500以上の施設で導入され、約2万人が参加していますが、ピックルボールの参加者数に比べるとまだまだ少数派です。
今後の展望
テニスとピックルボールは今後も成長が続くことが予測されていますが、最大の問題は「限られたコートスペース」をどのようにシェアしていくかです。特に公共施設では、コートをどちらのスポーツに優先的に割り当てるかが課題になっています。
新しいコートの建設や、既存施設のリノベーションが今後の解決策として挙げられていますが、どちらのスポーツも拡大を続けているため、完全な解決には時間がかかるでしょう。このコート争奪戦は、今後もスポーツ界の大きな話題となりそうです。
まとめ
ピックルボールの急成長は、テニス界にとって大きな脅威となっており、コート争奪戦が巻き起こっています。特に経済的な面でピックルボールが優位に立ち、施設の運営側にとっても魅力的な選択肢となっているため、この競争は今後も続くでしょう。テニスがどのようにこの新しいライバルと共存するのか、今後の展開に注目です。